2022年11月に公開された対話型AI「ChatGPT」により、「生成AI」への人々の認識は大きく変わりました。生成された文章の自然さや人間味のある回答は、もはや人間同士の議論に近いものになっています。しかし、参照するデータベースは人間一人の脳を軽々と超えているのです。
対話型に限らず、これからの社会は、生成AIを無意識に使用する時代に突入したとも言えます。それは、かつてとは何が決定的に異なるのでしょうか。そして、生成AIを使うことで得られる恩恵と潜在的な脅威とは何でしょうか。
2016年にはAIテレビ®︎「ニューズオプエド®︎」を世界で初めて立ち上げたジャーナリストの上杉隆氏と、日本のインターネット黎明期からシーンをけん引してきた竹中直純氏が登壇し、「世界目線で考える。特別編 〜生成AIにしかできないこと〜」と題したトークイベントが、2023年8月22日に恵比寿で開催されました。会場では、タイムアウト東京代表の伏谷博之がモデレーターを務めました。
この1時間半のトークの中で、AIの進化によるメディアの役割の変化、ビジネスモデルの変容、人材削減、生産性向上といったポジティブな可能性から、危惧、AIと生きる老後、AIは魂や意識を持つかという話まで、幅広いテーマが議論されました。
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AI活用するメディアと人によるジャーナリズムの時代へ
上杉氏が立ち上げたニューズオプエドは、AIによって自動運用されたニュース番組で、AI記者とAIアナウンサーが活躍しています。特に、AI技術による進化により、GPT2.0に代わってChatGPTで使用されているGPT3.5が採用されたことで、大きな成果を挙げています。
また、上杉氏は、メディアとジャーナリズムの違いについても解説しました。AIによる報道の進化によって、速記者や記者会見の代わりにAIが活躍する可能性があると語りますが、一方で、取材現場での一次情報発信や直接のインタビューなど、本来のジャーナリズムの仕事が再び重要になってくるとも述べています。
AIは理系から文系の仕事へ
また、生成AIには「プロンプト」と呼ばれるコマンドが必要です。ChatGPTにおいては、自然言語での質問がプロンプトとなります。言葉選びの巧みさによって、回答の質が変化すると言われています。「AIはエンジニアやプログラマーのものから、一気に文系の仕事になったんです」(上杉氏)
生成AIは人生のパートナーになり得るか
常にAIと会話し、互いに学習し合いながら何年間も過ごせば、自分一人では実現できなかったことができるようになるのではないか、と伏谷は新たな議題を投げかけました。上杉氏は、性の方面では十分に起こり得ることだと言います。すでに「AIグラビア」などでは顕在化しており、VRやAR空間の中でさらに過激なことをして自己完結する人は出てくるのではないでしょうか。
竹中氏は、固有のサービスに委ねる危うさについて指摘しています。「もし自分の人格のほぼ全てを注いでいて、例えば8年後にOpenAIがサービスを終了してしまったら、人生のうちの何年間かは全く失われてしまう」と懸念点を挙げました。
潜在的な脅威について
以下の文章は仮のものであり、現在世界中で著作物の保護について議論が行われています。2023年8月、アメリカの連邦裁判所は、AIが作成した芸術作品にはアメリカ国内で著作権が保護されないとの判決を下しました。
一方、日本では、AIの機械学習に関しては著作権法を問題視せず、規制緩和を行っています。このAI開発における先進的な優遇策は、海外のニュースでも大きく取り上げられています。今後、世界がどのように動いていくのか、注目したいところです。
魂や意識は宿るか
現在のGPT3.5とGPT4は、パラメータ数を膨大にすることで精度を向上させたものです。しかし、パラメータ数の増加と精度の向上にどのような因果関係があるのかはまだ未解明な部分が多くあります。「これから5、6とさらに天文学的な数の大規模モデルにすることで、自己修復や自己保存のようなことが起これば、人間は勝手にその中に魂を感じるかもしれない」と竹中氏は答えます。「魂があるような状態を、受け取り側が魂があると決めてしまうかどうかです」
上杉氏は、魂に対応するツールになり得るかもしれないと語ります。感情に作用し、感動を促すような音楽や物語を作り出すAIはすでに存在しており、次に生まれるのは宗教かもしれません。
また、伝統的ないくつかの宗教は実践哲学であり、アルゴリズムにユーザーの性格や経歴などの情報を覚えさせ、その人にマッチングするような実践哲学を作り出せば、「そういう意味での人類の悩みには貢献できるかもしれません」と上杉氏は話します。
人間の未来は……
ChatGPTの飛躍的な進化は、今は人間の役割だと思われている論理構成、人間自身がどんな情報を取得するかについてのフィルター、さらに生活上、新たなテーマを設定したりすることすら、全てAI任せになってしまう怖さがある、と竹中氏は語ります。
「生成AIが当たり前になった世の中で、人間には一体どんな情報が必要になるのか、見てみたい気がします」(竹中氏)
「北欧諸国における『ベーシックインカム』の社会実験のように、AIが人間に代わって従来やっていたことを完全に行えるようになったとしても、人は生きる存在理由を求めて、必ず新しいものを見つけてくるのではないでしょうか」と、上杉氏は人間の可能性を肯定しました。